一部だけコピーを隠し持っていたので、それをもとに自分で筆写する。全16巻×5部。これもまた気の遠くなる話だ。「とにかく自分の書いたコレは後世に残すべき世紀の大傑作である」という信念だけは揺るがなかったのだろう。でなければとてもやっていけん。
苦心のすえ完成したものを友人知人のつてを頼り、なんとか30部ほど押し売りすることに成功…したのもつかの間、内容があまりに分不相応で生意気すぎたので幕府に目を付けられ、発禁処分と入牢。さらに数年来の苦労の結晶である版木を全部没収されてしまう。
当時は活字ではなく、文字は全部版画で彫るのだ!全16巻の大作を何年もかけて1ページ1ページ全部自分で彫る!気の遠くなるほどの作業だ。怪奇版画男も裸足で逃げ出す恐ろしさ!
しかし、狭い仲間内で放言しているだけではやはりダメだ。そろそろ本気モードでデカイ仕事をやるぞと決意した子平は畢生の大作 #海国兵談 を書き上げる。しかしマジモードすぎて全然ウケる要素がないので出版してくれる版元がいない。仕方がないので自分で版木を彫ることに。
とにかく政治オタクで言いたいことがいっぱいある。あちこちで放言しているうちに憂国おたくクラスタではそれなりに知られた顔となる。諸国漫遊のうちに各地のインテリオタクたちの知遇を得る。わりと社交的な性格だったのだろう。社交嫌いで、ひたすら創作オンリーの #前野良沢 とは真逆のキャラ。
当時ちょっと物珍しかったオランダ船の絵を描いて売り出したりもした。とにかく言いたいことがいっぱいあるので、絵そのものより、余白にびっしりと文字を書き連ねることの方に全力を注ぐ。「俺の話を聞け!五分だけでもいい!」
#林子平 は絵心のあるオタクだったのでイラストを描いて売りさばいたりもできた。諸国漫遊のおかげで得た知識をフル活用し、異国の風俗などを描いて売り出す。
あと、好奇心旺盛なので、あちこち旅行したい。実家に金を無心して、北は蝦夷地から南は琉球まで諸国漫遊する。今で言うなら世界旅行に近いだろう。とりわけ長崎には長逗留して国外情勢の事情通となる。
あと、とにかくヒマなので実家に金を無心しては風俗で遊びまくる。世は飢饉で農民はバタバタ飢え死にしているのだが、吉原で豪遊三昧。
「それにしても、この国情は憂うべきものだ。政府は何をしておるのか」などと、たまに義憤に駆られたりもしつつ、相変わらず遊んでいた。
引きこもりのニートだったが、好奇心旺盛なので、ヒマにあかせて、とにかく本を読みまくり、膨大な知識とともに屁理屈の達人となる。
「とにかく今の政府はイカン!官僚どもは何をやっておるのか。オレにグランドプランを描かせろ」とたびたび意見を具申してはガン無視される。
子平は武家の次男坊なので無聊をかこつ部屋住み暮らしだった。人から後ろ指を指されるものの、働かんでいいのはうらやましい。お姉さんが絶世の美人だったおかげで良家に嫁ぐことが出来、一家全員がその恩恵を被る。このへんも幸運だった。