本論はこんな処ですが、ここでもう一歩踏み込んで、土着の信仰と僧会の教義の関係について考えてみたいと思います。実は、僧会も腐海・王蟲を蔑視するなど異なる点はあるものの、世界が浄化過程にあるという「希望」は共有されていたことが本文中で示唆されています。
更にその信仰のなかでは、ナウシカが擬せられた青き衣の者/白き翼の使徒は彼岸・極楽としての「青き清浄の地」への導き手とされました。
閑話休題。こうした矛盾を抱えた土鬼歴代王権にとって、墓所は権力の源泉であると同時に権力を掣肘する厄介な存在であり、できれば祭り上げておきたい存在でした。このことは、出陣時に墓所の封印を宣言し、また「何をやっても墓所の主のいう通りだ」と毒づいたナムリスの態度によく現れています。
事実、シュワ及びト軍全滅後、ようやく墓所はその扉を開いてヴ王を招き入れ、新王にしようとするなど正にキングメーカー然としています。こんな姿があからさまになれば王の権威などあってなきが如しでしょう。
この点を解く鍵が五巻冒頭にあります。皇弟ミラルパ重篤の間を突いてヒドラ復活・巨神兵培養と不穏な動きを見せる皇兄ナムリスに対し、ミラルパ派の僧会幹部が「先帝様のご禁令」として諌止しようとするのです。
上人によれば土鬼の祖先がシュワに封印した旧世界の業を、自らを救世主とする神聖皇帝が解き放ったとあります。ではこれは何時の時点の話か。