ナオキはこれしかない。ほかに何も持ってないので。

まあそれはとも子の個人的な感情。ナオキ自身の話としては、ただ「俺に関係のない理由で関係を破棄するな」というホナミに対する叫びでした。この漫画は恋愛モノとしてはあまりにも旨味のないノイズが多い。だからこそ、ナオキの主張がすごくピュアなものに見えて欲しい、という思いがありました。

「それでもナオキは行動したんだ」って綺麗事に落とすことも可能かもですが、やってることは個人情報を盗む犯罪行為です。ナオキは全部間違ってる。前向きの方向性も間違ってるし、それを達成する手段も間違ってる。間違ってて何が悪いんだよ！描きながらキレ散らかす暴力とも子。

振り返ってみると、海の一連のシーンはすごく熱量が乗っていた感じがします。美しい別れも、それを糧に新たな人生を生きるのも「そのチャンスを掴みやすい人」だけに与えられるものなんですよ。ため息をつくと幸せが逃げる？前向きじゃないと幸運に気づけない？何言ってるんですか？って感じですよ…

最終話を読んだ方はご存知の通り、5話は種明かしであると同時に、6話に向けて高速で伏線を張っている話でもあります。一旦ここでキレイに話が終われる状態を作りたかった。なぜならば「絶対にキレイに終わる恋愛なんかにしてやらねえからな」という暴力とも子の鋼の意志があったからです。

「自分の力で得られないものが、相手側都合で一方的に破棄されること」自体にもナオキはまあまあ慣れています。なのである程度先を見越して「自分からアクティブに人間関係を築けない性質で、恋愛を知ってしまって、これから先やっていけるのか？」みたいな怯えです。ホナミ何わろとんねん。

ナオキにとっては「どこ見て言ってんだ」って感じでしょうけど、もうナオキの側には「離れたくない理由が自分の側にある」ってわかってるので、惚れた弱みです。

ここは本当に本当にひどいシーンのつもりで描いてました。 「自分より若いのに人生諦めて、でも自殺もしない奴がマジでいる！！！」って言ってるんですよ。もちろんホナミに悪意は無いにしても、言ってることはそういうことです。老人の諦念を慈しむのとはわけが違う。

最期に踊ろうと思っていた場所で踊れなくなったのだから、ただ身を引こうという生き方が、ホナミ自身の矜持であったし、おそらくホナミの周囲の人もそれを尊重できる人たちだったのだろう的な匂わせ。

具体的なパーソナリティを一気に明かすわけですが、重要なのは「ナオキと正反対の属性の人」であることと「それを明かすことで、ホナミがナオキとの関係を清算しようとしていること」です。ホナミは打算の恋愛もできる人だけど、ナオキ相手にそれを貫くことがとうとうできなくなった。

ナオキの態度はまあまあ一貫してて、将来の話にビタイチ反応しない。良いことなんか何もないっってすごく自然体で思っているので。でもそこで何かを言い返して会話を回すほどの社交力もないので、ただただ地蔵。それはホナミ相手でも変わらないナオキの根底の特性です。

絵的なところでは、ホナミの衣装はヒッピースタイルを意識してて、そのへんも年齢感が出たらいいなと…。ナオキ運転してますが免許持ってません（お金も時間もないので）。背景がオーストラリアモチーフなのは、なんか一番平たく「冒険感」が出るだろうと…さばんなちほーで愛を叫んだ中年。