アスベルとナウシカの出会いは漫画版でも劇場版と同じ、腐海での戦闘と腐海深部への落下ですが、この「後」が大きく異なります。即ち、腐海を脱出した二人は土鬼マニ族に囚われますが、咄嗟の機転でアスベルはナウシカを脱出させます。…自身は留まりタコ殴りにされるのですが… 
   この後のアスベルは何と六巻末の一瞬を除き、ずっとナウシカと「別行動」になります。ある意味、アスベルの冒険はここから始まるのです。まずタコ殴りの洗礼を受けたアスベルはマニ族に受け入れられ、のみならず僧正の側近くに仕え、共に王蟲の軍事利用阻止ーひいては皇帝への反逆ーすら実行します。 
   そして蟲使い村から脱出直後のアスベルはすぐユパと意気投合します。荒天の中、ボロ船を巧く操作しつつ話を続けるアスベルにユパも「良い船乗りだ」と感心すること頻りでした。凄いぞアスベル! 
   この後、森の人との出会いを経てミト達と合流し大所帯となったチーム風の谷(仮)の中で、アスベルはガンシップのパイロットとして、また偵察役やエンジニアとして確固たるポジションを得ていきます。この辺のコミュ力も主人公みがありますね。 
   そんなアスベルが激昂し我を忘れたのが、クシャナ一行との遭遇でした。老若男女問わず同胞を皆殺しにした首魁を目の前に落ち着けというのが無理な話でしょう。寧ろよくユパの諫止を聞いたものだと感心します。 
   勿論、アスベルとてクシャナを赦した訳ではなく、一時憎悪を棚上げして復讐行使を「保留」したのですが、それとて中々出来る事ではありません。抑々、そんな簡単に人間割り切れませんし、彼の様に「割り切れなくても何とか進む」ことが皆出来るなら世の中どんなに平和になることか! 
   そんなアスベルの心の支えに、しっかりナウシカが存在しています(そして恐らくナウシカにとっても)。アスベルの「ナウシカが皆を繋ぐ糸なんだ」「愛する風使い」は彼の思いの丈を表すと同時に、本作を象徴するとも言える名台詞の一つと言えるでしょう。 
   実はマニ族は僧正による反逆計画を(失敗時に類を及ぼさぬよう)知らされておらず、ミラルパによる巨神兵輸送命令にも、ナムリスによる僧会粛清にも唯々諾々と従っていました。そんな彼等に「ナウシカの道」を選ばせたのは、やはりアスベル達の功績が大でしょう。 
   もしマニ族の決起なかりせば、土鬼避難民に多大な犠牲が生じることとなり、それはナウシカの「憎しみより友愛を」という説得に力を失わせたことでしょう。他ならぬナウシカの行動こそが、ナムリスの「暴走」を誘引したのですから。その意味でもアスベルの功績は大なのです。 
   次にシュワの墓所にて。最終盤、墓所が崩壊するなか、オーマの死に自失するナウシカを救いだしたのが他ならぬアスベルでした。この時のナウシカにはオーマの死を悼む「以外」がなく、放っておけばほぼ確実に死んでいただけに、アスベルあってこその、あの大団円といえます。 
   ここに至るまでのアスベルの行動もまた、危機一髪の連続でした。シュワ到着後、巨神兵のビーム攻撃に巻き込まれて大破したガンシップを何とか墓所上に不時着させましたが、お陰で墓所の「天の火」から逃れ生き延びることが出来ました。 
   それからアスベルは、巨神兵が開けた「傷口」から墓所に潜入します(この「傷口」も割と至近距離で危機一髪!)。そこでヒドラ達との戦闘になりますが、ここが陽動(?)になる形で、ニアミスしたナウシカ達はすんなり墓所中枢に進むことが出来ました。ナイスアシストですよアスベルさん!