しかしナウシカはこの事実を、のみならず王蟲と墓の体液が同一=腐海と蟲が人造の世界浄化装置である事実をも「森の人」たちだけとの秘密にしました。かかる決断を(決断の是非は別としても)彼女はいかなる「責任」で行ったのか。
それは五巻の終わり、彼女が土鬼大海嘯の「真実」を知った時でした。大海嘯の原因たる粘菌は人間の愚行=腐海の軍事利用にも関わらず、王蟲は人間への(当然の)怒りではなく、ただ仲間たる粘菌を救い、腐海に迎え入れるため「だけ」に、自らが苗床になる形での自死を選んだのでした。
その事実ー人間の愚行が粘菌や、本来全く無関係な腐海・王蟲の自己犠牲的死まで招いたことーの重さに耐え兼ねたナウシカは自らも死を望み、結果虚無に喰われかけてしまいました。
最終幕、墓所の体液で青く染まったナウシカは、夕日を受け金色に輝くシュワの都跡に降り立ちます。あたかも「青き衣の者」伝説をなぞるかのように。
また、シュワ突入直前、ナウシカは同行する蟲使いたちに「世界の真実」を語ります。腐海が世界を浄化した末に、いつか清浄な世界へ辿り着けるという「偽りの真実」を。
東京五輪2020との奇妙な符合が有名なAKIRAですが、劇場版にはまた最近の、目的を全く見失いつつある某国暴動についても実に示唆的な場面があります。暴徒に祭り上げられた鉄雄いわく「あいつらはぶっ壊してくれる奴なら誰でもよかったんだ」…これが神作か…
漫画版・映画版とも物語冒頭のユパは「探す者」として行動します。腐海の存在意義、そして人類は腐海にこのまま呑まれる定めなのかについて答えを求めるべく、ユパは長らく腐海をさ迷ってきました。
しかし、かなり早い段階でユパは自分の限界も悟ります。ナウシカが見つけた秘密ー清浄な土と水の中では腐海植物も瘴気を出さないーを目にしたユパは愕然とします。自分が半生追い求めたナゾのカギが目の前の少女にあることに今まで気づかなかったとは!
五巻以降、ユパの目的は専らクシャナを救い、「王道」に導くこととなります。即ち、復讐に燃えるアスベルを制してクシャナ一行を受け入れ、ナムリスに彼女を拉致された時には単身追いかけ、救出の機会を伺います。何故ユパはクシャナにそれ程入れ込んだのでしょうか?
が、そのクシャナは仇敵である兄死亡後の虚脱と、何より憎悪で染めてきた己の過去に圧し潰されかけていました。7巻、土鬼避難民と一触即発の状態にあってなお、クシャナはユパの説得に対して最早手遅れと諦めの言葉を口にしています(駄々をこねているようにも見えますが…)
そして死の間際、ユパはナウシカにも(恐らく念話で)エールを送りました。それは彼女が敬愛する上人同様、愛しい風=ナウシカのこれからの道行きを祈念するものでした。
@Rag_na_6ck とはいえジルもユパに丸投げではなく、かなり厳しい族長の心得も教えています(それこそあのユパが躊躇う程に)。また、最期には父として娘の行く末を案じているのが印象的でしたね。