正人と盛生が友達になってから少し経った頃…盛生の口から「杏奈と正人は付き合っているのか?」と直接聞かれたことがあった。
正人はいつもの事(杏奈は告白されることがよくあり、その過程でそういったことを他の男子に聞かれることがあった)として、それを否定した。
というのも、盛生は「杏奈の事が好き」なのだ。
彼にとって、杏奈に話かけられるのはそれがどういった類に感情でも嬉しいに違いなかった。(むしろ、常にプラスに捕らえている節さえある。)
そんな友人の姿を見て、正人は少し前の事を思い出す。
諸々をうやむやにすべく、さっさと帰宅してしまった春斗だったが…帰ってきた後で「あの後どうなったんだろう?」や「告白みたいなのしてて、もし成功したらどうすんだ!?」などといった不安が今になって滝のように襲ってきた。そして「いつもの妄想」が始まってしまう。
さっそく、盛生は正人に探りを入れる。
とはいっても、彼はそこまで頭がいいというわけでもないので直球で「二人は付き合っているのか?」ということから切り出してみた。
それに対する正人の反応は「付き合ってない。ただの幼馴染だ」というもの。
見るとそこには知らない男子が立っていた。妄想の世界に浸っていた為、気が付かなったが、端正な顔立ちで長身のその男子は眉根を寄せてこちらを見ている。
彼はまず自身が温泉川 礼雄(ゆのかわ れお)だと名乗った。名前を聞いてもまるで思い出せないので初対面であることは間違いないと思うが…
ここで安心してはいけない。もしかしたら、恥ずかしがって本心を隠しているかもしれない。
そう思った盛生は更に深くに切り込む。
「じゃあさ、俺、杏奈に告白してもいいか?」
少し恥ずかしかったが、それもこれも誤解を生まない為。ここで誤解を生めば後々、正人に恨まれる可能性があるからだ。
それが彼…蟹江正人(かにえまさと)の存在。
正人は盛生にとって「親しい友人」であり、同時に「杏奈にとっても身近な異性(幼馴染)」であった。
二人の仲は傍から見れば、友達以上、恋人未満でありそんな二人が「本当にはどういった関係なのか?」が盛生にとっては重要な事だった。
そんなことが何度もあって、さすがに不審に思っている様子のアレクだったが、当然、どんなに問い詰められてもフィオにはその『秘密』を口にすることはできなかった。
五年前…まだ今みたいにオタクの陰キャじゃなかった頃、興味本位からふざけて下着めくりなるものをやっていた時期があった。いま思い返すと何気にとんでもないことをやっていたな~と自分のことながら感心する。(いまなら絶対にできない。というか女の子とまともに会話もできない)