これは皇帝の死と共に事実上消滅した土鬼帝国とは非常に対照的です。無論、土鬼は大海嘯で国土が壊滅したという点は差し引く必要がありますが、既に五巻冒頭において、ミラルパが人事不省に陥っただけで無傷のはずの都シュワにいる僧会幹部は機能不全に陥っており(続く)、
土鬼との対比では、トルメキア王国では宗教の影が薄いのも特徴的です。即ち戦争に際しても「神」を掲げた戦意高揚は見られず、それどころかヴ王は神官達の警句(?)にも馬耳東風で、神殿にもとんと足が向いていない(笑)ご様子。
というのも、「トルメキア戦役」では当初から奴隷=人的資源の獲得を重視しており、また本国では農業人口の減少を重大な問題と捉えていることが、先に述べた神官たちの警句からも伺えるからです。
実際、トルメキア-土鬼間の戦争が恒常的慢性的になっていることは、クシャナが「白い魔女」として土鬼でも恐れられていること、辺境諸国が戦役発生を「いつもの動員」と受け止めていること等からも明らかです。
しかしながら、こうした「自転車操業」は確実にトルメキアを蝕んでいきました。戦争の長期化は奴隷獲得以上に働き手を国内から奪い、膨れ上がる戦費は、貨幣の質を低下させ(その結果恐らくインフレを誘発し、)都トラスの維持修繕さえ覚束ない状況に王国を追い込んでいきました。
実際、クシャナが父から王国を継いだ時には、土鬼帝国は崩壊消滅、エフタル諸国は難民流入で混乱中、そしてトルメキア軍もほぼ消滅状態。正に意図せずして、「世界的な軍縮」が実現していたわけで、このこともクシャナの中興=疲弊した国家再建を助けた、と考えるのは些か皮肉に過ぎるでしょうか?
それは即ち、ペジテで発掘されるエンジン或いは武器であったり、甲冑や航空機等の素材となるセラミックであったりですが、これらの輸出により、とりわけ戦時にはエフタル諸国は(少なくとも一部は)多いに潤ったと考えられます。