先ず末の第三皇子から。第三皇子は4巻、カボ基地でのクシャナとの対峙で初登場し…直ぐに退場(物理的に)します。この時点で上兄二人は先に帰国しており、第三皇子は謂わば第2軍のしんがりを押し付けられた格好でした(このことから第三皇子は兄達に対し少し劣位にあることが推察されます)。
サパタ包囲の問題はいったん後回しにするとして、以上を見るとミラルパは実に細々とした「現場仕事」に精を出しています。即ち、
・巨神兵奪取&培養王蟲受領
・そのついでにマニ僧正の反乱鎮圧
・サパタ包囲軍の前線指揮
コレに更に、幽体離脱を駆使した青き衣の者=ナウシカへの攻撃が加わります。
最後のやり取りがまた、ナウシカの心の声が聞こえそうで切ない…
「立派な人になれたかな」
「貴方は自慢の息子です(私の方こそ母であれただろうか)」
「誇り高く勇敢で優しい子です(他の誰も見ていなくても、私は貴方をちゃんと見ている)」
それは恐らく、ナウシカが母から欲しかった言葉でした。
しかもそれらは様々なバリエーションがあります。「裁定者」巨神兵然り、庭園の「不死の番犬」牧人ヒドラ然り、「浄化の神」墓所然りです。しかし、人間以上の知性体がぽこじゃか量産される社会とは、またそこでの人間への眼差しはどうなるのでしょうか?
ナウシカがクシャナのことを沢山教えてくれた→そのクシャナー傷付いた、本当は心の優しい人ーはナウシカに似ている→ナウシカと友達の自分はきっとクシャナの友達になれる。チククの言葉を補うとこんな感じでしょうか。そしてそんな彼の言葉にクシャナは初めて微笑み、手を差し出すのです。
そしてこの点こそ、ナウシカが「森の人」と完全には一体化できない理由となります。彼女は、腐海の「外」に余りにも多く愛するものがあるのです。その意味でナウシカと「森の人」セリムの関係は、『もののけ姫』におけるアシタカとサンの関係を彷彿とさせます。
即ち7巻、難民宿営地で一触即発となったマニ族vs.トルメキア軍の対立を、ユパが身を挺して鎮めるのですが、この時に決定打となったのは、ユパの死に重ねられた僧正(の現影)の復活でした。
その第一段階。恐らくはアスベルの説得もあり、王蟲培養槽の破壊を決断した僧正に彼女は渋々従います。それ=皇弟への反逆がどんなに恐ろしいか心を痛めつつ、それでも敬愛する僧正の決断に付いていこうとしたわけです。
即ちミラルパは自らの死=帝国の崩壊を恐れる余り延命を繰り返した末、帝国に圧政を敷き続ける晩年を過ごします。また墓所は「人類という種の永続(或いは浄化世界の完成)」という未来の目的だけを見続けた結果、現在を生きる生命を「浄化の途中経過」として等閑視するに至りました。