では三皇子の第二軍+第三軍編入部隊はどうか。恐らくヴ王はこの軍では不十分で、いずれ土鬼軍の反撃を受けると予想していたと思われます。事実、三巻冒頭でクロトワが広げていた地図では、大海嘯以前の時点にも拘わらず、トルメキア軍は既にナウリム川以東に後退しています。
勿論、兵を擂り潰す冷酷さは父ヴ王も凄まじいのですが、ヴ王の場合はあくまで目的達成のためであり、そこに繋がらない無意味な犠牲は即座に避けようとします。対して皇子達の兵の使い方は目的もしょぼい(父や義妹への対抗・陰謀)上、その「使い方」が目的達成に全然寄与しない点で正に無駄遣いです。
ここで庭園に収蔵された「もの」を見ると、有史以前の環境と、厳選された「人類の成果物」に限定されており、肝心の人間と人間社会に関わる技術・生活その他がすっぽり抜けています。それこそ、牧人の言葉を借りれば「伝えるに値しないものだ」と言わんばかりに。
こうしたケチャの怒り・悲しみはアスベルにも痛い程解るものでした。彼も故国を失い部族を皆殺しにされた身であり、ナウシカとの出会いを経てもなお、機会あれば復讐の炎は燃え上がるのですから。…そんな境遇から二人は次第に親近感を覚えていったのかもしれませんね。
東京五輪2020との奇妙な符合が有名なAKIRAですが、劇場版にはまた最近の、目的を全く見失いつつある某国暴動についても実に示唆的な場面があります。暴徒に祭り上げられた鉄雄いわく「あいつらはぶっ壊してくれる奴なら誰でもよかったんだ」…これが神作か…
このように「神人の地」は外部の人間世界にリソースを依存する点で「庭園」とは異なり、寧ろ「墓所」に近い性質を持ちます。即ち、墓所の本来目的=浄化計画の管理と人間世界監視には、世俗権力者との交渉・利益供与・権威誇示が不可欠だからです。
まずクシャナについては、そもそも抹殺前提で精鋭たる第三軍を取り上げ、ペジテ攻略だけの小隊で主戦線から離れた腐海南進を命じ、暗殺者としてクロトワを送り込みます。
翻ってナウシカと「虚無」との対話(?)ですが、ここでも死を救済・安寧として説く虚無に対し、ナウシカは「生」を訴え反駁します。それに対し虚無は鋭く糾弾します。生きるためにおのが手を血に染め、屍の上を歩いてきたお前がそれをヌケヌケと語るのか?と。
勿論、ミラルパ達はこの人工腐海(腐海の成立ちを考えれば「人工」は些か奇妙ですが)を制御する策を講じました。即ち、植物を不妊性に変え、また寿命を短くして枯れ易くすることで国土への害を最小化しようとしたのです。…それでも毒の除去に何年かかるか分からない辺り非情に場当たり的ですが…