さて、こうした墓所に対し、ナウシカは反駁します。「滅び/失敗を私達は抱えながら、試行錯誤して今を精一杯生きる。墓所の定めた未来には縛られない」と。これに対しヴ王は「小気味よい」と強く賛同し、「自分の運命は自分で決める」と墓所に啖呵を切ります(この辺りは歌舞伎版もかっこよかった…)
けどそれは反省も変化も拒むことと同義なので、文字通り「先の無い」話ではある(にしても「テロサーの姫」は不謹慎ながら言い得て妙かもしれませんね…)
販売ありの絵画展で凄い絵に出会うと、お値段よりも前に心の中のスルト元帥が「家も調度品も合わせないと絵に失礼だろ!」と身の丈を超えるツッコミを叫ばれるので、やはり個人的に絵は美術館や展示会で眺めるのがよさそう…
或いは、初代土王=嘗て存在した「青い衣の者」の一人だったのかもしれません。以上をまとめると、神聖皇帝以前の土着信仰は、
・祖先が邪悪な「奇跡の技」を封印したという武勇譚
・「何れ来る浄化世界」を奉じる終末思想
・終末まで民を導くメシアたる「青い衣の者」=土王
という特徴を持ちます。
実際には、墓所は奇跡の技を封印した場所ではなく、その技を以て建設された世界浄化計画監視のシステムそのものであり、また神聖皇帝含む歴代土鬼王も、実際には封印どころか墓所のパペットに近い存在であり、「封印」とは多分に王権側の政治的虚構でした。
ですが、土着信仰は単なる墓所知識のコピーではありません。それを示すのが「墓所の封印」にかかる伝承です。即ち上人いわく「世界を破滅に導いた奇跡の技を土鬼の祖はシュワの地深くに封印したが、神聖皇帝がその封印を解いた」と語りますが、ここには大きな虚構が存在します。
では、なぜ土着信仰≒土王は神聖皇帝・僧会に敗れたのでしょうか。この点についてナムリスは「歴代土王の圧政と狂気に民衆が新王を望んだから」とはっきり述べています。圧政と狂気…まるで神聖皇帝末期と同じ歴史の繰り返しですね。
シュワの墓所の「秘密」=旧世界の超技術の存在を知るヴ王は、追い詰められた土鬼軍が何等かの超技術を投入し、どこかで総反攻に転じることを恐らく読んでいました。そして「その時」こそが王の狙い目でした。即ち、がら空きになった土鬼本陣=シュワの急襲で、正に終盤で王が採った作戦でした。
とすれば、ナウシカの腐海遊び・蟲達への親愛も、「次期族長」「姫姉様」ではない、等身大の少女ナウシカとして振る舞える、「友」たる蟲達と交流を結べる場所ゆえと言えるかもしれません。…その場合、幼少時の王蟲との「別れ」は更に辛いものとなりますが…