次にメカニカルな部分ですが、まずヒントになるのがサパタでのエンジン取り外し場面で、チューブの切離しにより容易に機体からエンジンだけを外せる様子が描かれます。これは裏を返せば、「それ以外」は最悪喪われても何とかなる可能性を示唆します(クロトワさんの台詞も同様)。
しかしここでナウシカは大きな欺瞞を「我が子」対し行います。本当は墓所ともども、旧世界の災禍の源たる「我が子」の死ー墓所との相討ちーを願っている。それは自分を愛さなかった/愛せなかった母よりもっと残酷な仕打ちではないか?後に牧人により、まさにこの点をナウシカは責められます。
そんなアスベルの心の支えに、しっかりナウシカが存在しています(そして恐らくナウシカにとっても)。アスベルの「ナウシカが皆を繋ぐ糸なんだ」「愛する風使い」は彼の思いの丈を表すと同時に、本作を象徴するとも言える名台詞の一つと言えるでしょう。
ナウシカ救出直前に、蟲使い達といつの間にか打ち解けている様子が描かれているのもいいですね。あと終幕、泣いて駆け寄るケチャを迎えるアスベル。最後のページに描かれる主要人物はセルム・ナウシカ以外は実はアスベル達だけなんですよ!その意味でも本作はアスベルの冒険譚でもあったと思うのです。
そして彼は前王朝を打倒すると、新王として墓所(と教団)に迎え入れられ、そしてナウシカと同様に墓所の主と対面することとなります。ナウシカと良く似た彼が、しかし彼女と決定的に道を違えたのは、ここで彼が墓所の主に応えた(屈服した?)ことでした。
そんなアヴェンジャー・クシャナは物語の中で大きく変化します。即ちクシャナは相棒/参謀役=クロトワ、同盟者或いは友=ナウシカ、師=ユパに出会い、更にユパの死という犠牲を経て「復讐」に変わる指針「王道」を歩む覚悟を固め、「トルメキア中興の祖」への成長を遂げるわけです。