この一連のコマは、熱弁をふるうのび太の横のドラえもんが、口を挟む前からわざわざ配置されている点に注目したい。
どう見てもバカバカしいことを言っているのび太を、ドラえもんの冷めた視線が客観化させ、顔が見切れたドラえもんが更に空間を滑稽にしている。
この絶妙にバカにした感じが素晴らしい
ジャイアンの歌に怯える民衆をのび太が他人事のように客観的に分析する(当然その後巻き込まれる)
次のカットも真剣に悩むジャイアンと完全に他人事なドラえもんの態度の対比が面白い。
F先生の達観した視点が作品の根底に流れている気がする。
これも「他人事」
パパの視点(発言)から始まって、やる気のないのび太の視点に移っている。「おこった」という非常に客観的で他人事な感想が笑える。
最もよくあるのが名付けて【他人事】
急に視点をずらす、あるいは他の視点を入れて滑稽に見せる。
このオチでは真剣に抗議している夫婦2人の様子と、実は騒動の発端でありながら事情がわからないドラのびが、黙々と飯を食らっている様子と対比することで客観化させている。
【ツッコミ待機】
…と名付けたものの、あんまりしっくりこないです。情報待機の一種ということで。
どう見ても次にリアクション(ツッコミ)の来る衝撃的な様子で止められる笑い。これもF先生は多いですね。
上手くいっていたことが、思わぬ勢力が介入することで予定が狂ってしまう。
ヨーロッパの古典喜劇でもよく使われていた手法のようです。
【複数系列の反復】
先に反復が少し出てしまいましたが、これもベルクソンの主要理論の一つ。
別々の系列の出来事が繰り返されることによる滑稽さ。
F先生が特に使われていた手法じゃないでしょうか。
【墓穴を掘る】
これもよくある手法。自ら喋っているうちに墓穴を掘ってしまう滑稽さ。ドラえもんではあまり見られない?
これは「うつけ者の特徴」としてよく使われる手法で、B型H系の主人公の山田はこの手の発言が非常に多いです。
【攻守逆転】
これはベルクソンが「反転」と呼んでいたもの。ある流れがガラっと反転しまうことで滑稽さを出している。ドラえもんとのび太が前後で同じ調子で嗜めているのは同じくベルクソンが言っていた「反復」の笑い
普通の作劇論でも「リバーサル」等と呼ばれます。
情報待機には「スルー」という形式があって、こののび犬の例もスルーに入ると思います。
最近(ってほどでもないけど)の作品を例に挙げましょう。佐渡川準先生の「無敵看板娘」と音井れこ丸先生の「若林くんが寝かせてくれない」から。
最近では「スルー」のコマの背景を黒くするのが定番のようですね。
【情報待機】
一コマ間をあえて空けてオチへの叙述のリズムを取る手法。「のび犬」という情報だけを伝えるなら真ん中のコマは要らないのに、わざと「ポン」と置いてある。これは最近の作品のほうが分かりやすいので、やはりB型H系の例を参照します。
【頓降法】
レトリック用語。段々と盛り上がってきたものが、急に落ちるように展開するさま。この場合、のび太の必死の抗議を完全に無視してドラえもんが梯子を外している。
段々語調が下がっていくものは漸降法と呼び、これも一緒に扱っておく。