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「地主の当主で岡野孫一郎というのが道楽者で、ある時揚代が十七両たまって、吉原の茶屋に訴えると言われて困っていたが、いつものことだから誰も世話をしなかった。おれは昨今越してきたばかりで事情を知らなかったから、金を工面して済ましてやった。」
#はやおき訳
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「売るものもいよいよ尽きてきて、しまいには武器を売り払った。長年手を加えて拵えた物だったから惜しかったが、仕方がないから残らず売った。売る時は、拵える時の半分にもならないものだ。
しまいには四文の銭にも困った。まったく、地主の支払いを立て替えたせいだ。」
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「ある晩、地主の御前様が密かにおれの所へ来て、
『孫一郎がふしだら故に、家中が困っておりまする。支配向きへ話して、どうにか隠居させてくだされ』
と言った。」
勝小吉31歳頃。道楽者の地主・岡野孫一郎を隠居させた小吉。その後も次々トラブルを起こす隠居に手を焼く小吉ですが…。
マンガ『夢酔独言』七十九話(1/4)
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「取扱の者に、孫一郎の隠居について話したら、
『御前様から証拠の文を取ってくるように』
と言ったからそうして、長坂三右衛門に見せた。頭の長井五右衛門にいきさつを話して、支配から、
『隠居しろ』
と言ってもらったから、孫一郎も何とも言うことができず、隠居した。」
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「家事のこともみだらになっているから、家来に指図をして、取締方にも言って取決をつけてやった。
程なく、隠居が岩瀬権右衛門という男を用人に入れて、好き放題するから、岡野の者達がどうにかしてくれと頼んできた。おれが頭沙汰にして権右衛門を追い出し、他の用人を入れた。」
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「それから一年ほど経ち、厚雪が大病になったから、いろいろ世話をした。
その時厚雪が、
『今度は回復が見込めないから、伜のことは万端頼む。嫁を取らせて御番入をするまでは、必ず見捨てずに世話をしてくれ』
と言った。
『聞き届く』
と返事をしたら、喜んで、翌日亡くなった。」
勝小吉34歳。地主一家の隠居に跡継ぎの世話を頼まれ、嫁取りから屋敷の修理まで、小吉が奔走します。
マンガ『夢酔独言』八十話(1/4)
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「孫一郎の舅になる伊藤権之助におれが交渉して、嫁には百両の持参金を持たせ、嫁入り道具も録高相応の物にしてもらった。
知行所の百姓どもも驚いて、
『私達も岡野様の奥様のことで骨を降折りましたが、岡野と聞くと破談になったものです。お前様のお陰で、我々も安心いたしました』」
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「岡野は年二百両でやりくりしていたから、それを三百三十両にしてやった。
雇っている者どもにはそれぞれ一年分の手当をつけて、稽古事もできるようにし、馬まで買わせ、千五百石にしては少し贅沢過ぎるくらいにしてやった。
借金が五千両ばかりあるから、暮らしを維持するのも大変さ。」
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※このへんはフィクション演出です。
小吉隠居後(あと40話くらい後)の話です。
勝海舟が語る、幼い頃の父と博打と飢饉のエピソードです。
マンガ『夢酔独言』八十一話(1/4)
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