映画がモキュメンタリ方式だったのに対して、漫画版では「カメラが回ってない間」をシーンとして描くことを明確にしてるの、劇的なカメラワークとアクションがつけられるし、正しい取捨選択って感じでいい。「実写には偶然が映るけど、漫画には作為しか描かれない」ってことに自覚的で適切な演出。 
   白石晃士監督の「コワすぎ!」シリーズの漫画化。オリジナル実写映画を初出から10年以上経って漫画化するというおおよそ類例が思いつかない企画だけど、原作の手触りは漫画に出てて工藤D、市川AD、田代カメラマンの三人組が確かにあの三人組なのですごい。 
   主人公が常にモブ顔みたいなところはこだわりを感じてすき(主人公の目力をもりもり盛ろうとする漫画多い昨今では大冒険な気はする。でも貫いて欲しい) 
   小説や文芸の業界の描き方がライブ感で二転三転するので、あまりにも凄まじいことになっている。作家が〆切ギリギリにまったく違う原稿を送って文芸誌に載る作品をすり替える(すでに台割はできてるし文字数もページ数も違うし、編集者ではなく作家がやろうとしてるし)とか、あの、あの……!! 
   「担当編集者がついたけど衝突してしまう」的なエピソードを描くのに、昨今のラノベやそれを好む編集者の描写がこれなのが大変な厳しさを感じる。まあ、準ポルノラノベの描写の正確性やキモさなんか作者や読者には瑣末な問題、という判断なんだとは思うんだけども。 
   この辺とか、あまりにも体験談過ぎるんだよなぁ……ただ、『平成少年ダン』とかもそうだけど、平成懐古系の話はあまりヒットしてないイメージなので、ちゃんと続くか心配しちゃうな。やっぱり人口の絶対数が少ないせいなのだろうか。 
   在宅でエロゲのシナリオライターやってる目に光がない姉、好きなんだよなぁ(感謝)エロゲを恋愛の教科書としている妹とエロゲをつくってる姉、という対比構造をつくるのが難しそうな位置関係だけど、役割を潰し合わせることなく展開を推進するために併存させられてるの、すごい絶妙でいい。 
   エロゲ題材の必然性そのものはあったりなかったりのままだけど、ヒロインが七転八倒しつつスケベに持ち込もうとし、あらゆる話題が1・2のセックスに引きずり込む論理のアクロバットに展開されるので、スケベコメディとしてテンポがよくてめちゃくちゃおもしろい。表情描くのうまくて好き。 
   いきなり登場した自意識終わってる女はすき(話を転がすのには寄与しないからメインに据えられない宿命を背負ってるタイプのキャラだ) 
   「主人公のストーカーをしてる美少女が、自らがストーカーである事実を隠して、ストーカー避けのために主人公と付き合ってるフリをする(最後まで正体は隠したまま)」という漫画、「同性だからストーカーの気持ちがわかる」と「自らがストーカーである」を掛けた台詞で終わって驚いた。うまいな…… 
   怨霊が出てくる時にドット絵表現+グリッチノイズになるシーンがあるのだが、これおもしろいな。たぶん、作者がツクールホラゲー系の文化に触れてきた人で、この表現とオカルトホラーが観念的に結びついてるものと思うんだけど、こういう出力になるのか。