大正１１年の「横目で見た東京」（勿来関人）では、焼鳥屋に「豚の内臓なんぞ喰はせやがって」と文句をつける人間は野暮であると断じてます。 高価な鶏肉が一串１銭２銭で売れるわけがなかろう、というわけです。

修業を終えた心平は独立して屋台をかまえます。 ”オートバイの音が止って、材料屋が毎日配達してくれるのが昼頃、それから切って串にさす。” この頃には焼鳥用に、豚の臓物を洗って煮る下処理業者ができていたようです。

現在の一般的な焼鳥（やきとん）屋よりも豊富な品ぞろえです。 詩人草野心平が経営していた焼鳥屋台でも、タン(舌)ハツ(心臓)フエ(喉笛)ガリ(軟骨) ガツ(胃袋)キモ(肝臓)ヒモ(腸)子袋(卵巣)などの品揃えがありました。

”昔は、あそこはどうしてあんなにまずいのだろう、あそこは食べられたものではない、といわれるような料理屋が、ときどきあったものです。当節は、どんな料理屋でも、そんな店はとても考えられません。これは、化学調味料のおかげだとおもいます”

”もちろん、絶対に使わないというのも、行き過ぎでしょう。たとえば酢のものなどには、これはほんの少しで、大へんきくのですから” 湯木イチオシの味の素の使い方は、「酢のもの」にほんの少し使うことです。

とり雑炊に味の素を使う例です。 とり雑炊は酢のものではありませんが、湯木流のとり雑炊では”少しきかせ加減に”ポン酢を入れます。 つまり、味の素はポン酢のパートナーなわけです。

さばずし（しめ鯖）にも使います ”炊き上ったら熱いうちに、酢を入れます。この酢の量はごはんの量の一割ぐらい。この酢の味は酢一、砂糖一、塩三分の一くらいの割りに合せ、味の素を少し入れます。”

玉子豆腐の項では、”玉子は非常に味の素と合う食品”と、やはり玉子と化学調味料の相性を強調しています。

湯木は鱧などの椀物や、あんかけ豆腐で葛を引く時に味の素を入れます。 普通の出汁には味の素を使わないのに、同じ出汁でもなぜか葛を引くときは入れるのです。これも説明がないので、その理由はまったくもって謎です。

昭和１１年の雑誌「栄養と料理」に、栄養学の啓蒙家香川省三が「ホルモンの話」という文章を寄稿しています。 ”ホルモンといへば世間では若返りの薬か精力の素の様に考えてゐますが”

大正１１年に出版された「若返り法と男女両性の人工的変化」によると、フランスの生理学者ブロウン・セカールが、犬の睾丸をすりつぶして食塩水で薄めたものを自身に注射したところ、回春効果が得られたといいます。

この人体への睾丸エキス注射、日本でも九州大学などでで実験が行われ、結果はまちまちですが、精力増強や回春効果が得られたという報告もなされたそうです。 やはり、犬の睾丸をすりつぶして注射したのでしょうか？ 明日に続きます