これは次回考察予定の土鬼軍が、浮砲台による地上砲撃・爆撃を盛んに行うのとは非常に対照的です。このあたりにも、輸送艦隊としてのトルメキア航空軍の性格が現れているのかもしれませんね。
【補論①】実は作中でトルメキア航空軍が「爆撃」をする様子は殆どありません。僅かに三巻で蟲に襲われた村を第二軍のバムケッチが爆撃するのと、最終巻のシュワ攻防戦において、幕僚が上空からの墓所爆撃を「進言」する場面のみです。
それ故クシャナ殿下はエフタル諸族のガンシップにバージを附けて身重にさせ、その最大の武器たる機動力を封じる始末です。結果、戦えるのがコルベット一隻という状況でアスベルの奇襲を受けてしまいます。しかも酸の湖ではトルメキア軍の命令を無視して各国はさっさと逃げ出しますし…
即ち、コルベットやケッチは機動性で土鬼軍主力の浮砲台に勝り、ある程度の数さえあればこれを蹴散らしてバカガラスの為の制空権は取れそうなのです。しかも、エフタル同盟軍とトルメキアには根深い不信があり、エフタル諸族側がトルメキア航空軍を虚仮にしている様子も描かれています。
また火砲も土鬼軍の浮砲台に比べれば貧弱です。とはいえコルベットの機動力は浮砲台を遥かに上回り、ある程度の隻数さえあれば浮砲台の艦隊すら「イチコロ」にできます。するとひとつ疑問が生じます。エフタル同盟軍のガンシップは何のために必要なのか、と。
事実、四巻でクシャナ殿下は第三軍のサパタ脱出のための「船団」をナウリム川の向こうのカボ基地から奪取しようとします。そして、ケッチはその「護衛」になります。また、サパタまで殿下が使用したコルベットも、当初の目的はバカガラスの護衛でした。
そして末端、現場レベルでは富=奴隷の獲得にあります。人口減が続く本国では奴隷が高く売れるー ナウシカではないですが、こうしてみるとトルメキア戦役には上層部から末端まで、怪しい大義名分の欠片すら無いですね…正に末世…(そういえば「シュナの旅」でも最大の商品は人間にされてましたね…)
その意味ではヴ王の逃げ帰った息子たちへの叱責は、本心からの失望(儂ならピンチをチャンスに変えるのにこのバカどもは…)と同時に、自らが出陣する大義名分を得るための「演技」と見ることが出来そうです。やっと儂の出番が来た、と。そう考えるとヴ王の宣言への廷臣達の表情もなかなか意味深ですね。