漫画版 #ナウシカ 三卷の、瘴気で瀕死の兵士を懸命に介護するナウシカ、「母さん…」の呟きに強く反応しているところが、後に明かされる彼女の過去ー決して癒されない悲しみを教えてくれたが自分を愛さなかったーと重ね合わせると中々重い。

或いはPumpkin Scissorsの陸軍情報部実働部隊「クレイモア・ワン」も近いかもしれません。飽くまで対暴徒用であり、同格の正規軍的組織にぶつけるものではない(が、作中では正規軍が外交条約により帝都から引き離されているため他に戦力がなく、投入を余儀なくされる)。

使いどころを間違えると精鋭部隊もなす術無く壊滅しかねないという話、漫画版ナウシカで拠点防衛に投入されたトルメキア第三軍(重装甲騎兵主体の野戦部隊)の壊滅を思い出しますね… https://t.co/Y87lDOxD45

さて、ここで翻ってチヤルカの「役割」を思い出しましょう。彼の役割は大海嘯から一人でも多くを救い、戦火の再燃を押さえ、土鬼の人々の暮らしを立て直す事でした。そう、「浄化の真偽」を考える余裕が無く、実際に作中でもこの問題に直面することは最後までないのです。

だからこそナウシカもまた、土鬼難民に今を生きる希望を訴えかけました。世界が浄化過程にあること、またそのことが「今の自分達」にどんな意味があるのかという問いは、ナウシカと墓所の対決に集約され、またその「答え」は封印されることとなるのです。

大海嘯で打ちのめされた民衆は現世に絶望し、「青き衣の者」を来世への導き手として極楽往生を願うようになっていました。この人々に世界は浄化過程にあるという「遠い未来への希望」を示して何になるでしょう。必要なのは明日を、今を生きる希望なのです。

即ち、多くの人にとっての関心事は如何に不毛なトルメキア戦役を終え、憎悪の連鎖を絶ち、なるべく多くの命を救い、平和な生活を再建するかにありました。土鬼難民へのナウシカの訴えにもそのことは如実に現れています。

即ち、腐海に没した国土は回復不能であり、腐海の発する瘴気で多くの人が亡くなり、或いは石化の病に苦しむみます。こうした状況下では蟲使い達すら腐海を天罰と見なしており、更にいえばナウシカも「青き清浄の地」を(精神体とはいえ)直に見るまで世界浄化に確信が持てませんでした。

ここで、物語を最後まで読んだ後であれば、ナウシカ世界が浄化過程にあること事態は真であり、従って「浄化など嘘だ！！」は(作中での真偽としては)誤りとなります。が、ここで問題となるのは何故連載版のチヤルカがこうした台詞を口にし、また単行本版では修正削除されたのかという点です。

先週に続いて、漫画版 #ナウシカ のアニメージュ連載版→単行本版での微細な修正の意味を考えてみたいと思います。左が連載版、右が単行本版ですが、チヤルカの台詞「永い浄化など嘘だ！！」の有無が大きな違いとなります。

これは一人ナウシカに限った話ではなく、大海嘯に打ちのめされた土鬼の民衆もまた、本来は現世での希望となるべき「青き衣の者」を彼岸への導き手と見なし、従容として死を受け入れることこそが正しい信仰という虚無に沈んでいます。それは正にナウシカと同じ状態でした。

つまり「虚無」はナウシカが猛々しく反駁した(それは同時に論理的には反駁し難かったことも意味します)「全ては定められた業苦であり、受け入れるしかない」という上人の言葉への不安が肥大化し、内面で具現化したものでもあるわけです。