にも関わらず、クシャナは「ことここに至っても憎悪の連鎖は消せないのか…」と諦念、厳しく言えば自己憐憫に浸り積極的な行動をおこせないまま立ち竦んでいました。 
   ですがこれでクシャナが「生まれ変わる」かといえば然にあらず。クシャナは憎悪の虚しさこそ身にしみましたが、代わりのアイデンティティを見いだせず迷走を続けます。辛うじて、クロトワはじめ生き残った部下を救うことだけが彼女のよすがとなっていました。 
   勿論、土鬼大海嘯はサパタに集まった粘菌を「救う」為に集まった王蟲の骸を苗床にして腐海が広がったので、そこまで腐海が広がらない(まあ仮に海に達しても500リーグそこらですが…)という制限条件はかかります。 
   手勢は生残り200名弱(とクロトワさん(ここ大事))、本国は弱体化しつつ、その中で相対的最大勢力は仇敵たる兄の一派。これでは、如何にヴ王の指名(道化による証言付き)とはいえ、クシャナが速やかに王位を継承するのは困難でしょう。 
   今週の #逃げ上手の若君 、基本ノリノリの泥棒ものだが、要所で抉られる鎌倉陥落の記憶と、それはそれとして諏訪で築いた「今」のために戦おうとする時行君の描写がよい。これは確かに大将の器…! 
   勿論、瘴気と蟲なかりせば、今度は腐海の存在そのもの、即ち既存の生態系と全く異なる「異世界」が人間世界を圧倒しようとする事実そのものが問題となります。要するに、「自律した巨大な生態系」自体が人間世界にとって脅威となるわけです。 
   このことに関連して気になるのは、僧会における「序列」です。実は作中では、チヤルカがサパタ包囲軍司令官に任命されている以外、僧会各員の序列・位階は明らかにされておらず、僅かに「長老院」なる幹部会らしきものの存在が伺われるだけです。 
   何せミラルパは「もう死んでます」から、ナウシカへの憎悪が消えて生き甲斐を無くし呆然とすることはありません。そも、帝国も土民も意識の中から消えた今の霊体ミラルパにとって、ナウシカへの執着も「今たまさかそれしか無い」ものでしか無く、執着の理由自体も殆ど失われていると思われます。 
   更に言いかえれば、「能力の専制」への反発とは、「秀でた能力が無くても真っ当に生きられる権利」「不健康で非文化的に生きる権利」を求める声であり、能力研鑽と競争「だけ」をずっと強いられるのはしんどいという声である。みんな5000兆円欲しいし、人生息抜きがあってなんぼなのである。