そして重要なのがしずかの役割。 初対面では「かわいい！」とはしゃいで、お人形遊びに誘ったりパピを守ると約束したのに、肝心な所で守りきれず、自分の代わりに人質になってしまう。 しずかの「パピを助ける」という意思は、今作のピリカ星に行く動機の中で最も重要なものと言える。

それを象徴するのが、今作では特に重要な役割を担っているスネ夫としずかなんである。 スネ夫は再三「なんで他人の戦争に首を突っ込まなきゃならないんだ」と泣き喚く。 これはそのまま、「自分の生活を脅かす独裁者に、個人の生活を捨ててまで立ち向かえるのか」ということの鏡像となっている。

この作品はドラマの構築の仕方が結構特殊で。 大きいうちは大したことに思えずちょっと他人事、しかしスモールライトを奪われて等身大の問題となると他人事ではなくなりシリアスになるという変遷を辿っている。 この作品はこの「大小の都合の使い分け」が物凄く重要。

パピというキャラクターは、のび太達と同年代でありながら星を統治する少年大統領、という非常に特殊な設定 これは歴代の大長編ゲストキャラの中でもかなり特殊。特殊故に難しく、原作では描写が希薄だと感じるところもあるのだけど、今回のリメイクを見るとやはり背骨はしっかり通っていると感じる

今作は恐らく、原作では希薄だったパピの人物描写を増やし、のび太達との「仲間」感を強調したかったのだと思う。 ところが、確かに原作のパピの描写は希薄だけどこの作品では「これが」一番やっちいけない改変。よりによって一番やってはいけない路線で変えてしまっている。

今回の映画化で最も大きな改変点は『パピが捕まるタイミング』、というかパピの扱い全般。 ネタバレだが今作では地球で捕まらず、ピリカに到着した後に投降し捕まる。 この改変が起こす作用がこの作品にとってどれだけ大きいか、制作者の方々は分からなかったのだろうか。

冨樫先生が今、初期のラブコメ路線をどう思ってるかは分からないし、まあでも後の作風を見るに基本的には黒歴史的な扱いとは思うけど、あの頃描かれていたキャラクターとかシチュエーション自体は、ちゃんと「好き」だったんじゃないかと思う。 好きじゃないと、こういう再登場はしない。

やたら抱きついてきて遊んでくれとせがむ姿もほとんどそのまま。 アルカ自体、この頃のハンタの世界観のなかでは意図的に異質なキャラクターとして造型されてると思うけど、その「異物感」を生みだすために、ラブコメ色の強かった頃の幽白のコテコテな美少女キャラが出されるというのが面白い

基本的に無邪気な性格で、他人に病的に依存して相手を生命の危機に晒す。無邪気さと邪悪さの両面がある黒髪ロングの(外見上は)少女という設定は、完全にアルカに継承されてると感じる。

村野のことを「あの子」という言い方は、以前から新一がしてるけど、この局面で「あの子」を使う岩明先生のセンスが凄い。 この場面は新一の「変化」を描くためのもの。島田達の「人間を理解する」という行動を信じきれず迷っていた新一が、生徒達の惨殺現場に遭遇して決定的に壊れそうになる。

心が壊れそうになったところを人間離れした感覚で無理やり落ち着かせ、自分の使命を再確認する。しかしその前に自分の大切な人の安全を確かめたい これがこの時点での、ヒトと獣の間を彷徨っている新一の正しい心理な筈。 「ヤツを倒す。でもその前にあの子を」という言い方はそれが完璧に表されている

この場面では新一は村野の安否が不明で、最後の別れ方が酷かったことを悔やんでいる。島田を仕留めることよりも、なんとか彼女の無事を確認したい一心のはず。 確認すると原作では 「ヤツを倒さなきゃ…！」 「でもその前に　あの子を…」 と言っている。