(2/4)
「おれが思い付いたのは、島田虎之助が二、三年前に江戸へ来たといっても、九州者でまだ江戸慣れはしまいから、一つ驚かしてやろうということだった。
そこで緋縮緬の襦袢に洒落た衣類を着て、短羽織に拍子木の木刀を一本差して、浅草新堀の道場へ会いに行った。」
#はやおき訳
(4/4)
「師匠にひどく叱られた。
頭の息子は、石川太郎左衛門といって、今は御徒頭を務めている。とんだ古狸で、何にも使えぬ、女みたいな馬鹿野郎だ。」
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「おれも頭の息子が相手だから我慢していたが、あれこれ馬鹿にしてくるから、ある時木刀で思いきり叩き散らし、悪態をついて、泣かしてやった。」
(2/4)
「おれが八歳ばかりの時に、親父が家中の者を呼んで、
『その原に人の形をこしらえて、百物語をしよう』
と言った。そこで夜、皆で集まって、その隣の屋敷へ一人ずつ行って、その化物人形の袖に名札を結び付けて来るということをした。皆が怖がっていて、おかしかったよ。」
#はやおき訳
(3/4)
「…おれは毎日払暁に起きて、剣術の稽古に行く前に、徳利搗といふことをやつたよ。これは、徳利の中へ玄米五合ばかりを入れて、その口へはいるほどに削つた樫の棒で、こつこつ搗くのサ。おれは毎朝掌に豆の出来るほど搗いてこれを篩でおろし、自ら炊いて父母に供したことかあるヨ。」
(3/4)
「『慎みようもない。親父も死んで頼みもないから、御番入りもとっくに諦めました。せめてしたいことをして死のうと思っていたが、兄に面倒をかけては気の毒だ。今からすぐに、ここに居ることにしましょう』
と言ったら、精一郎は、
『私も、お前は必ず断食して死ぬだろうと思ったよ』」
(4/4)
「関所を越して休んでいたら、後から商人が来た。
『今、私が関所を通りましたが、関所でお前様の噂をしておりました。さっき通った侍は飛脚でも箱根の者でもなし、何だろうと』
と言うから、おれは、
『分からぬはずだわ。おれは殿様だから』
と言ってやった。」
(4/4)
「喜平次がおれに江戸のことを聞いて、
『オレの家の子になれ』
と言いおるから、そこで考えてみた。家を出て四ヶ月になるが、おれも武士だ。漁師奉公なんかして一生いてもつまらねえから、江戸へ帰って、親父の判断に身を委ねようと思った。」
(4/4)
「『お前さんは仕掛けが立派だから、さぞによい仕事ができるだろうさ』
と言ってやったら、そこでようやく騙したことを白状して、
『何ぞ使ってくだされ』
と言った。
それからつけ込んで、今井が騙されたことを話して、金を取り返して別れた。」