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「『片っ端から切り倒す』
と、大声をあげたら、通りの者がバッと散ったから、抜き打ちで男が逃げるところへ刀を浴びせた。
切っ先で背筋を下まで切り下げたが、間合いが遠くって、帯が切れただけだった。男は大小の刀も懐中物も、残らず落として逃げていった。」
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「『今度のことは、一同が私欲ばかりに走り、地頭を軽んじた故のことだ。おれは隠者だから、世の中へ望みはない。どうなろうと大勢が助かって、丈助も夢酔が死んだと聞けば、この一件も手軽に済むだろうと思ったのさ。だが一同とも金談を請けるなら、身命に替えても調達すると一筆書け』」
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「『一同許すから、顔を上げて、夢酔の切腹をよくよく見ておけ』
と言って、脇差を握った。
村役人どもが、
『恐れながら、御免御免』
と、布団のそばへ這い寄る。
『早く首を打て』
と喜三郎に言ったが、平伏したままだ。
『己には頼まぬ』
と言うと、仕方なく立って背後に回った。」
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「遠州で見た石川を名人だと思って、江戸まで後を追ってきたと言ったが、田舎者は馬鹿なものだ。その頃は、石川は師匠の中でも一番剣術が下手だったっけ。
斎宮の息子は帯刀といったが、だんだん精を出して、目録になって国へ帰った。」
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「毎日、よその村の若い者がおれの所へ来て稽古をしたり、そのうちおれがあちこちへ呼ばれて行くようになった。
着物も仕立てて、金も少しは貯まり、日用品は、弟子からもらった通い帳でただで買えるから、困ることもなかった。」
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「ある日、平山先生を訪ねたら、おれに飯を食べるよう仰って、茶碗の欠けたのに黒米を盛って、味噌を少し付けたのを、古い盆に載せて出してくれた。それを五、六杯食ったら、先生はおおいに笑って、我が屋敷を訪ねてきて、こんなにたくさん食したのはあなたが初めてだと仰った。」
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「そこで渋田は非常に喜んで、家業の余暇にはいろ々々な書物を買つて読み、江戸へ出た時などには大層な金をかけて沢山の珍本や有益の機械などを求めて帰つて、郷里の人に説き聞かせるのを、一番の楽しみにして居るといふことであつた。」
「『しかしながら、この子の家はとても貧しく、ここに着ている着物も実は親類から借りたぐらいでござります。粗相があるやもしれませぬ』
と答えたが、構わないということで、それから大奥のおチヤの部屋へ上がり、初之丞様のお側に仕えることとなった。」
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「姉がいろいろ心配して、あちこちの寺に祈祷なぞ頼んだと聞いたから、姉を安心させるために隠居した。翌年春、三十七の年だ。」
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「切石で長吉の面を殴ったら、唇がぶち壊れて、血を流して泣きおった。
その時親父は、庭の垣根から様子を見ていて、侍を迎えによこした。
『人の子に傷をつけて、済むか済まぬか。己のようなやつは見過ごせない』
と言って、縁側の柱におれをくくりつけて、庭下駄で頭をぶち破られた。」