しかしこの漫画の本質は、そこではない。青春ものは青春ものでも、むしろ描かれるのは「青春の愚かさ」であり、「なぜ自分はあの時そうしなかったのか/できなかったのか」という後悔の念。総じて言うなら、この漫画全編を覆っているテーマは「喪失」である。
だからこの漫画は、つい誤解しがちだが「ユニークな日高先生の姿を描いたもの」ではない。最初に書いたように、これはどこまでも東村アキコという漫画家の「私漫画」である。だから主人公がいない場所での日高先生の行動が三人称で描かれることは一切ない。彼女の完全なる一人称文体だ。
そしてどこまでも「私漫画」に徹することで、本作は逆に強靱な普遍性を帯びてくる。作られた物語ではない、彼女の悔悟に満ちた思いが直球で語られることで、誰の心にもある、そして普段は蓋をしている思いと共振することになる。
実は最終巻で号泣するのではないかと予測していた。しかしほとんど泣けなかった。肩透かしと言ってもいいほどに。それは現実が感動的なクライマックスを拒否していたから。涙によるカタルシスを許してくれなかったから。代わりに残るものは、「涙を流せないことの呪い」である。
極力ネタバレを排したため、漠然とした表現ばかりになってしまったが、何かしら感じるところがあったら、ぜひとも読んでいただきたい名作である。
昨日からずっと『土を食う十二ヶ月』と書いていた気がする。『土を喰らう十二ヶ月』でした。失礼。お詫びに見に行きます。お詫びじゃなくても見に行くけど。
@kitinawa 「すずめが満員になっていないにも関わらず、他の映画にも客が入っている」ことにより、あなたの「すずめ以外の映画はすずめの代替品であって、そんなものを売るのは商売として間違っている」理論が、独りよがりの狂ったものであることが分からないなら、何を言っても無駄。
『土を喰らう十二ヵ月』最近自分にとって驚くような映画体験が多いのだが、まさかこの作品までがそうだとは夢にも思っていなかった。途中で涙が溢れ、危うく嗚咽しそうになり、それを必死に口を押さえてこらえたほどだ。しかもその時に襲った感情が必ずしも普遍的なものではないからややこしい。
しかし全編には思わず涙が出そうになるところも多い。私が思わず泣けそうになったシーンの中に、以下の2つがある(2枚目は肝心な言葉を消してネタバレ防止済)。
ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
https://t.co/RDCP7izZfI
土を喰らう十二ヵ月
https://t.co/Y3t0fJquaZ
あちらにいる鬼
https://t.co/Vb9BeR2QWL
ディア・ハンター
https://t.co/x4kGt8I5BP
ところで『ある男』を見たら、どうしたって『千夜、一夜』も見ないわけにはいかない気になってきた。だって明らかに繋がっているというか、コインの裏表みたいな話だから。今週中に何とかして見よう。