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「その稽古場に、おれの頭(かしら)の石川右近将監の息子も来ていた。そやつはおれの禄高や何かをよく知っているから、大勢の前で、
『手前の高はいくらだ、四十俵ではさぞ困っているだろう』
と言って笑いおるのが常だった。」
#はやおき訳
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「丈助は立替金を勘定した帳面を二冊こしらえて、一冊は自分の控えにして、一冊は孫一郎に渡した。
岡野の者は立替金を払うことができないから、今度は難癖つけて丈助を追い出そうとした。すると丈助は利口だから、ある晩、孫一郎が酔っている隙を見て、孫一郎の帳面を焼いてしまった。」
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「しょせんここに長く居てもつまらぬから、上方へ行こうと思った。そこでいろいろ支度していたら、ある晩、斎宮が、
『江戸へ帰りなさい』
と、意見を言ってくれた。おれは、
『もはや決して江戸へは帰られませぬ。この度で家出は二度目でござります。かたじけないがききませぬ』」
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「おれは中村親子に江戸のようすを話して、
『思い出したから会いに来たのさ』
と言ったら、
『まあまあ、ゆっくりしていきなさい』 と、座敷を一間空けて、不自由のないように世話をしてくれた。
おれは近所の剣術使いの所へ試合をしに行くやら、いろいろ好きなことをして過ごした。」
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「おれはこれからは日本全国を歩いて、何かあったら切り合ってなりゆき次第になろうと覚悟して家を出たから、何も怖いことはなかった。
やがて大井川まで来たが、増水していた。そこで問屋場へ寄って、
『水戸の急ぎの御用だ。早く通せ』
と言った。」
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「『見ての通り、しばらく寝込んでいて、月代も剃らずにいるくらいだ。だがせっかくだから、一本使いましょう』
と言って使ったが、まず二本続けて勝ったら、小林が組み付いてきた。腰車にかけて投げてやると、小林は仰向けに倒れたから、腹を足で押さえて、喉を突いてやった。」
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「『其の方二人はこれまで特別おれに刃向かったのを、格別の勘弁をしてやるというのに、不届きなやつだ』
と脅かしてやったら、二人は大いに怖がった。
『この証文は、夢酔がもらっておく』
と座敷へ入ったら、二人は早々に帰って行った。
百五十両は、この一言で踏み倒してしまった。」