昭和５年の銀座の目抜き通りに存在した森永キャンデーストアは、アメリカの模倣から始まったのです。

小説家阪田寛夫は、評伝「わが小林一三―清く正しく美しく」において、次のように書いています。 ”阪急百貨店で、五銭の「ソースライス」あるいは「福神漬ライス」が、二十銭のライスカレーと共に有名になった。”

新しく「開発」した麺料理には、中国人留学生の客が「柳麺」という名前をつけました。 偶然にも横浜中華街や東京の支那そば＝柳麺と全く同じです。不思議な事もあるものです。

明治３９年の月刊食道楽７月号によると、通常の鰻は３０-６０匁（１１０－２２０グラム）の重さ。 現在の養殖鰻ですと、さばいて焼いた後の蒲焼の状態で２００－３００グラムありますから、鰻といえばほとんど天然物だった昔はサイズがかなり小さめだったんですね。

秋山は兄から、露天の蒲焼は普通のうなぎとは違う、子供の鰻（メソ）を使ったものだと知らされます。 ”あれは貧乏街の押し売りをして歩くようなもので、メソの筏、小うなぎでそれだけ安いから大衆的の露店に出たものだ。だから露店へ出ない蒲焼きは、みんな大うなぎだった”（下町今昔）

手塚治虫が幼い頃宝塚で食べた「一銭定食」も、駄菓子屋の店の人が焼く「料理」でした。 なので『アドルフに告ぐ』の一銭定食は、自分で焼くのではなく、お金で買っているのです。

外務省外交史料館に、明治１４年にジョン・ピットマンという在日外国人が商務局に提出した、日本産醤油と中国産醤油の比較・分析資料が保存されています。 ピットマンは日本において中国産よりも価格の安い醤油を製造することは可能としながら、一つ、大きな問題点があると指摘しています。

”豚蕎麦のラウメンは五銭。茶はよく出たころに蓋をし傾かせ、飲むのでなく吸います。ラウメンは細く刻んだ豚肉を煮たのと薄く小さく長く切った筍が蕎麦の上にちょっぴり乗っている、これがたいした旨さのうえに蕎麦も汁もこの上なしです” 薄く小さく長く切った筍というのは、メンマのことでしょう。

ちなみに明治４３年に開店した浅草来々軒のラーメンは「そばの上に載る具はシンプルなもんでしたよ。焼豚にシナチク、あとは刻み葱だけ」。 なぜか芳蘭で新しく「開発」した麺料理と全く同じです。不思議な事もあるものです。

”背景にあるのは職住分離の傾向であり、つまりは消費の場である家庭と、生産の場である職場が機能的に分節されたことで、その中間にある盛り場や街路空間が、独特の自由や解放をもたらす空間として意味づけられるようになるのである。”

これは明治３５年の東京風俗志における牛鍋店の解説。 「割下」といっても赤ゲットにはわからないので、醤油と味醂を混ぜたものを割下というのですよ、と解説しています。 「しんこ」も東京弁なので、香物と翻訳されています。

この煮込みのおでんが文献に出るのは明治に入ってから。河竹黙阿弥作の歌舞伎、樟紀流花見幕張(初演明治３年)に、里芋とこんにゃくを煮込んだ「煮込のおでん」が登場します。